雨の季節

雨の季節が始まった、ということを美容師から聞いた。雨の季節は森歩きが映える。レインウェアを被って、もしくは傘を差しながら、粒子のような雨の中を進むときの心地よさはなににも変えがたい。雨の森歩きは、特別な記憶として残っていく。

雨が花に滴ると、無機水銀のようだ。雨を着ているニッコウキスゲは寝起きのように重たげだ。きれいでかわいい。きれいでかわいい。

空はいつのまにか晴れ間を覗かせる瞬間もまれにあって、差し込む光に唇は開いていく。希望とはあの瞬間を指すはずだ。

子どもの頃に、雨の中、蛙に出会ったときの気持ちがあれば、雨を楽しむ素質は十分だ。雨の中、カッパを着て長靴を履いて、水溜まりに突っ込んだ記憶があれば万全だ。

雨の中、森に出るのだ。妄想のタイムマシーンなんか乗るな。歩け、移動しろ。