坂口恭平さんを知ったのはたぶん2015年頃で、知ったきっかけは音楽やいのっちの電話だった。それからは著書も何冊か読んでいたしアルバムも何枚か聞いていた。家族でレコーディングしているアオとゲンのアルバム「クマと恐竜」がいちばんのお気に入りだ。
2020年にTwitterに投稿されていたパステル画が毎日どれも素敵で、それからは画集を買ったりもした。
抑うつで休職中のときのこと。インターネットの海に2022年5月頃に投げ込まれた1枚の絵に秋口に再会した。坂口恭平さんの「潜る人」という絵だ。
彼の描く夏や水、光、家族の絵が好きで、この絵には、そのときのどうしようもない抑うつ感情や見えてないけどどこかにありそうな希望を投影できた気がした。潜る人という題ながら、遊泳するという沈みこみ過ぎない景色だったのも気に入り、「えいや」と購入した。個展を開くというので貸し出したところレセプションに招待された。こんな機会は二度とないかもしれないので行ってみることにしたのだ。
人生の記憶の断片に残るシーンと切れ落ちるシーン、それぞれを丁寧に掬いあげて光のアルバムに綴じたみたいな素敵な場所だった。
絵画が縦に5段も連なる展示というのは初めてで、その勢いに笑ってしまった。時系列になっているのも興味深くて、いまのタッチはだいたい100枚目くらいから獲得したんだということも面白かった。パラパラとアルバムをめくっているような感覚で、水のようにサラサラしてて鑑賞していても疲れないので2周した。
Twitterや画集で好きだった絵にも再会できた。もう二度と集まらない可能性を含めて大切に味わった。
坂口さんのスピーチも心がこもってて、少しおどけながら感謝の言葉が繰り返された。家族、両親、親友、展示を支えてくれた職員、絵を貸してくれた所有者。ひとりひとりに感謝を伝えた。
2日前までうつで苦しんでいた彼は、5年前から準備されていたこの展示に出られないかもしれないと苦しんでいたそうだ。そんな彼に周りは彼がいなくても済む準備を重ね、安心させた。
作品や活動で多くの人を救う坂口さんが家族や周りの人に助けられて生きている。
抑うつで休職中に同僚が私の穴を埋めてくれたように、私も過去に誰かを助けたことがある。きっと誰もがそうだ。
助け助けられる役割がスイッチしていくこと。私もあなたも誰かを助けているという可能性。そんな簡単なことがどうしようもないくらい希望に思える。この世界には、誰かのためや自分のためではなく、みんなのおかげで回っている場所がある。
植物が虫や風に生存戦略を託すみたいに、誰かが誰かにどこかで支えられている可能性、いまはそれが希望に思える。
シークレットゲストで折坂悠太さんが出てきてブチ上がった。2016年ぶりに見れた。